PARADISEC

オーストラリアは、言語的・文化的多様性の豊かな地域に位置している。世界中の 6,000 の言語のうち、 2,000 を超える言語がオーストラリア・南太平洋諸島・東南アジア地域で話されている(このうちニューギ ニアだけでも約 900 の言語がある)。この数字は、今後一世紀のうちに数百にまで落ち込むと予測されて いる。これら 2,000 の言語の大半と、それに伴う音楽などの文化的表現方法は、ほとんど記録が進んでい ない。記述研究が始まった言語についても、高度な文化的表現(例えば歌に用いられる濃密で比喩的な語 法など)のほとんどは、これまで調査されてこなかった。

PARADISEC(Pacific and Regional Archive for Digital Sources in Endangered Cultures)は、太平洋 地域(ここでは大きく大洋州・東アジア・東南アジアを含む)で消滅の危機に面している文化について、 デジタル記録を保存しアクセス手段を提供するものである。我々の研究グループは、このアーカイブが関 係者にとってアクセス可能であるように、またデジタル・アーカイブの分野で確立されつつある国際標準 を満たすように、研究モデルを開発してきた。本研究の第一義的目標は、フィールドワークで得られた記 録を、記録された本人やその子孫にも利用可能なようにすることである。1,050 を超える言語のデータが 我々のアーカイブに蓄積されている。

我々は、記録のコピーを以下の組織に提供した。バヌアツ文化センター、ニューカレドニア大学、ソロモ ン諸島国立博物館、パプアニューギニア研究所、ラパヌイ(イースター島)。

我々は、音声・文字・映像の記録を登録し、目録を作り、デジタル化し、そのデジタルデータを長期保存 する枠組みを確立した。我々がまず重点を置いたのは、保存の取り組みが無ければ失われてしまうであろ う記録、特に 1950 年代から 1960 年代にかけて録画されたビデオテープを、確実に保存することである。

データの保存

記録は、将来読み出すことができる形で保存する必要がある。オープンリール・テープやカセットテープ は過去の技術となりつつあり、これらを再生することは困難になってきている。記録が失われる原因とし ては、サイクロン、火災、劣悪な保存状況などがあり、原本のみで複製のない記録はとりわけ滅失のリス クが大きい。

PARADISEC は、最高の品質でデータをデジタル化し、複数のコピーを異なる場所に保存することにより、 音声データを最高の方法で保存することができる。PARADISEC は、テープの情報をデジタル化した後、

その原本テープはもとの持ち主に返却する。デジタル化作業の間のテープの保管には責任を持つが、我々 がテープの長期保管を請け負うことはできない。

情報の発見

目録作成のための情報(メタデータ)は、アーカイブされる全ての品目に対して与えられる。これに加え て、将来はアーカイブに入る予定であるが現時点ではデジタル化されていない品目も、目録に含まれてい る。これにより、他の手段では検索できない資源が検索可能になる。目録に用いる記述子は、ダブリン・

コアや OLAC(Open Language Archives Community)の勧告に基づいて定められた。我々が現在用い ているメタデータ集合は、我々のウェブサイトからダウンロード可能である。これらのメタデータ標準を 用いることで、アーカイブ内の品目についての情報を共有することが可能となる。我々の目標は、対象地 域内から来る資源が、その物理的位置に関わらず、また検索する研究者の所在地に関わらず、検索可能に なることである。データの内容へのアクセス許可は品目ごとに定められている。現在のところは、原本提 供者の許可がない限り、内容へのアクセスは登録済みユーザーのみに限定されている。PARADISEC メタ データは、我々のオンラインカタログ(http://catalog.paradisec.org.au/)および OLAC(http://bit.ly/PARADISECatOLAC)で検索することができる。

知的財産権の問題

通常の著作権が当てはまる。したがって、アーカイブ内の品目それぞれにアクセス条件があり、その詳細 は原本提供者や録画・録音されている人物が指定する。データ内容が配布される場合には、語り手・演じ 手の著作者人格権が尊重されなければならない。未完成の作品や一般公開を意図しないデータについては、 我々は個別に対応する。詳細については我々のウェブサイトに情報がある。

文化の再興

消滅の危機に面する小規模な文化は、過去に記録された情報にアクセスするための補助を必要としている。 これが PARADISEC の原点である。記録を確実に保存することは、記録が将来にわたってアクセス可能

であるということである。PARADISEC のデータは、利用者のニーズに従って様々なフォーマットで出力 可能である。たとえば、アーカイブ内の音声データはハイレゾリューションオーディオで保存されている が、MP3 などの品質を落としたフォーマットでの提供が可能である。

技術的詳細

現時点では、プロジェクトの重点は音声ファイルに置かれている。音声のデジタル化には AudioCube ワー クステーションと Quadriga システムを用い、24 ビット・96kHz Broadcast Wave Format データを得 る。全データのバックアップコピーが、物理的に異なる位置に保管される。作業の詳細については我々の ウェブサイトを参照されたい。

PARADISEC は、シドニー大学・メルボルン大学・オーストラリア国立大学の三大学による共同プロジェ クトであり、関係分野の専門家からなる理事会の助言を受けている。

ワークショップ

PARADISEC は、セミナーや訓練セッションやワークショップを開いている。2003 年から 2014 年まで の間に 4 つの学会が開かれており、査読を経た論文がシドニー大学の Sydney eScholarship Repository(http://ses.library.usyd.edu.au/handle/2123/1159)で公開されている。

国際連携

PARADISEC はこれまでも当該地域の関係組織と連携しており、その輪をさらに広げたいと考えている。

PARADISEC は、メタデータや音声アーカイブに関する国際標準に準拠しており、DELAMAN(Digital Endangered Languages and Musics Archives Network: http://delaman.org)や OLAC(Open Language Archives Community: http://language-archives.org)を通じて、危機に面する文化のデジタル記録を行う 他のアーカイブとの連携を積極的に模索している。

2013 年には、PARADISEC は、<オーストラリア・ユネスコ国内委員会による>オーストラリア版世界 の記憶に登録された。2012 年には、European Data Seal of Approval の認証を得ている。

協力の呼びかけ

我々は、民族誌の研究者に対して、文字・音声・映像のデータを PARADISEC に提供することで、検索可 能かつ将来にわたって利用可能にするよう、呼びかけている。詳細については我々のウェブサイトを参照 されたい。

我々の提供するサービス

PARADISEC は、コスト回収のための費用負担をお願いした上で、いくつかのサービスを提供している。 具体的には、音声データのデジタル化や、民族誌学分野における記録・データ管理等の技術指導である。 以下の技術について、訓練を提供できる。 ・様々な記録装置の使用法と長短

・辞書編纂ソフトウェア ・文字記録の転写と注釈付け ・デジタル音声データと転写データとの間のリンク付け ・収集したデータを管理し、将来のアクセスを容易にする方法 ・収集したデータの分析と目録化

提供可能なサービスと費用の詳細については我々に連絡されたい。

連絡先 PARADISEC の責任者は、Nick Thieberger 博士である。  nicholas.thieberger@paradisec.org.au 電話 +61 3 8344 5982

シドニー大学ユニットの責任者は Linda Barwick 教授である。  linda.barwick@paradisec.org.au

Amanda Harris 博士 admin@paradisec.org.au 電話 +61 2 9036 9557

paradisec.org.au

PARADISEC は、オーストラリア研究カウンシル(ARC)、シドニー大学、メルボルン大学、オーストラ リア国立大学の支援によって設立された。また、PARADISEC は ARC 言語動態 CoE の資金援助を得て いる。

Paradisec_Japanese.pdf